2021年6月5日、6日の2日間にわたり、科学技術広報研究会(JACST)隣接領域と連携した広報業務部会は、カブリ数物連携宇宙研究機構と共催、大阪大学大学院理学研究科の協力のもと、先端科学と現代美術の交流の展示「ファンダメンタルズ バザール」を実施した。以下にその開催報告をまとめる。
以下全て撮影:赤石隆明
目次
実施目的
より”適切”な科学像・美術像が結ばれることにより、科学と美術が広く”一般的”な存在になること、ひいては広く評価主義とは異なる評価体系が準備されること、アート&サイエンスの文脈において、”真理”探究としてのアート&サイエンスが立ち上がることを目的とし、以下のことを3年間、実践的に試みる。
科学者・アーティスト間の汎用的な交流とその開示モデルを構築すること、
科学者・アーティストの交流プラットフォームを形成し広く一般的に拡張していくこと
まだ見ぬ真理を追うことの重要性について、広く世論の合意形成に努めること。
実施概要
実施内容
一見真逆に見える科学サイエンスと美術アート。しかし、何か普遍に通じるものを追求するという点で両者は等しいのだ。彼らをファンダメンタルズと呼ぼう。
2日間にわたり、科学者とアーティストを対象に、4つの交流プログラムをオンサイト・オンライン双方で実施。オンサイト参加者21名、オンライン参加者3名となった。実施会場となった日本科学未館 コンファレンスルーム木星は、通常ではつながらないように思われる科学と美術がつながるよう、非日常的な空間となるよう設計し、一般視聴者を対象にプログラムの一部を無観客ライブ配信した。
参加者
科学者とアーティストは一般公募で参加者を募った。参加したのは、
科学からは、
石河睦生(医用工学, 桐蔭横浜 専任講師)
石津智大(神経美学, 関西大 准教授)
一ノ瀬俊明(都市環境学, 環境研 主幹研究員)
冨田秀一郎(発生生物学, 農研機構 ユニット長)
中島啓(幾何学的表現論, Kavli IPMU 主任研究者)
波多野恭弘(非平衡物理学, 阪大 教授)
藤田智弘(天体物理学,早大 講師)
水元惟暁(行動生態学, OIST 博士研究員)
湊丈俊(表面界面科学, 分子科学研究所 主任研究員)
Hannes Raebiger(物性物理学, 横国大 准教授)
の10名。そのうち4名が自主応募、6名を隣接部会がコーディネートした。
美術からは、
うしお
木村亜津
黒沼真由美
澤崎賢一
古谷咲
前川紘士
水上愛美
山根一晃
山本篤
Nerhol
の10名で、全て自主応募だった。
哲学からは、
梅田孝太(ドイツ哲学, 上智 講師)
桑原俊介(美学, 上智 准教授)
小平健太(ドイツ哲学, 立教 講師)
永井玲衣(倫理学, 立教 講師)
の4名で、隣接部会がコーディネートした。
実施までのタイムライン
2020年4月:参加アーティストと科学者の公募を開始
2020年8月:オンライン連続セミナー「ファンダメンタルズ トーク」をプレイベントとして開始。以降月に1回づつ、全11回開催
2021年2月末日:公募を終了。2組14名の応募。1名辞退
3月23日、24日、27日:参加者説明会と個別面談を実施、1組13名を受け入れ
4月21日:参加アーティストと科学者にパートナー候補の分野の通知・変更受付
5月14日、16日、17日:参加者当日プログラム説明会 実施
5月17日:パートナー候補者を通知・変更受付
6月1日:最終的なコーディネート結果の通知
6月2日、3日:オンライン参加者進行確認会 実施
6月4日:プレイベント「ファンダメンタルズ トーク」最終回を実施
6月5日、6日:バザール 開催
コーディネートの手法
まず隣接部会が全参加者ーアーティスト10名、科学者4名 に面談を行い、各人の営みについてキーワードをあげてもらうとともに説明を聞いた。
その際、対象の傾向(大きさ、基礎/応用のどちらか、具体/抽象のどちらか)と、仕事の仕方(理論/実験/解析)について、自分の傾向と、パートナーに求める傾向、それぞれ聞き、指標とした。
次に、指標とキーワードを元に、コーディネートする6つの学問領域を決定。この段階で一旦アーティストと科学者にパートナー候補の分野を割り振り、意向を確認した。その後、策定した分野に該当する科学者をJACSTメンバーを通じて隣接部会がコーディネートした。
最後に、指標とキーワードを元に、20名の参加者につき、それぞれ4-5名のパートナー候補を仮指定し、意向を確認した。意向を加味し、パートナー候補を最終決定、通知した。なお、予定ではバザール初日の質疑・発表形式の交流を終えた後、再度意向を確認して反映することにしていたが、オペレーションの関係から実際には行わなかった。
実施プログラム
バザール当日の2日間の交流プログラムとしては、一見全く異なる科学者とアーティストが"正しく"まみえることができるよう、4つのプログラムを階層構造に設計、実施した。
ー会場
会場は、単なるブース展示のようなものとはせず、参加する科学者、アーティスト、哲学者にとっては、普段ではつながらないようなところがつながるような、同時多発的にあちこちで常に活発な交流が起きているバザールのような、非日常的な空間となるようにした。
また、実際には無観客ライブ配信となり来場はなかったが、一般視聴者にとっては、参加する科学者、アーティスト、哲学者の非日常的な交流そのものが、ある種の展示作品として鑑賞できるように、空間を設計・実装した。
ー参加者総覧
開催に先立ち、24名の科学者とアーティスト、哲学者がヴィジュアルを1点使って*自身の営みを説明する参加者総覧を作成し、テキストとビジュアルを通じた交流を行った。これは一般視聴者にも配布した。 *哲学の方はビジュアル不使用
ー発表・質疑形式での交流
初日は、20名の科学者とアーティストが参加者以外の視線を気にせずに交流ができるよう、一般には非公開とした。
この「発表・質疑形式での交流」では、あえてビジュアルの使用を制限(3つまで持ち込み可)することで、全く前提を共有しない他者になんとか自分の営みを理解してもらうべく、自分にとってはものすごく基本的なところから言語化するという試みだった。原則、紙とペンのみの30分間の発表と15分の質疑とした。
オンラインで参加している科学者・アーティストのために、発表は全てライブ配信をし、オンライン参加者はzoomを通じて質疑に参加した。
この配信は、オンタイムでは発表が被ってみられなかった参加者のために、アーカイブがみられるようにした。
ー直接的な交流
二日目は、「他者を介した交流」と「直接的な交流」を実施した。
「直接的な交流」では、20名の科学者とアーティストは各々事前に通知されたパートナー候補4名と1対1で40分づつ、PCを用いて視覚情報を見せながら具体的直接的ないわゆる交流を行った。
ー他者を介した交流
「他者を介した交流」は一般視聴者に向けてライブ配信も行った。90分の枠の中で、科学者とアーティスト両名だけでは得難い多様な視点からの交流を試みた。具体的には、1つには、哲学者が科学者とアーティストの交流を媒介した。
ー視聴者とのQA、視聴者同士の交流
もう1つには、科学者とアーティストの哲学者を媒介とした交流の途中に、一般視聴者を対象とした2種類のプログラムを実施した。1つは科学者とアーティストに、ライブ配信を視聴している視聴者が質問を問いかける「視聴者とのQA」、もう1つは一般視聴者同士が、哲学者モデレートの元に交流する様子を、当該の科学者とアーティストが視聴する「視聴者同士の交流」を実施し、科学者とアーティストが、多様な背景を持つ来場者の視点から何か新たな視点を得ることを試みた。またそれ以上に重要なこととして、視聴者自身が、視聴しているアーティストと科学者の対話と同様に、多様な背景を持つ他者(他の視聴者)との対話を体験する機会を提供することを試みた。
実施結果
マッチングの成立
今後交流を進めていく科学者とアーティストのペアが16組成立した。以下の一覧を見てわかる通り、複数のパートナーと進める人が15名いる。
最初の面談の段階においては、基本的に科学者もアーティストも、科学・美術について持つ情報が限られているため、パートナーについて強い方向性を持つ人は非常に少数だった。そのような段階での当事者の希望を、真にその人にとって本質的なものとして把握することには是非もあるように思われ、当人の意向に加えて指標とキーワードの一致についても重視した。
実際にマッチングの結果を見ると、16組のうち8組が「他者を介した交流」で組んだ相手で、その半数が第一希望同士、残りの半数も片方は第1希望だった。「他者を介した交流」10組中、8組が成立したことになる。
「他者を介した交流」で組んだ相手とはマッチしなかった3名の内、1組は「直接的な交流」で組んだ相手とお互いに第一希望でマッチしたもので、「直接的な交流」「他者を介した交流」いずれでも組んでいない相手とのマッチは1組だけだった。
コーディネートの手法としてはある程度有効と思われる。
Hannes Raebiger 黒沼真由美
一ノ瀬俊明 澤崎賢一
水元惟暁 うしお
水元惟暁 Nerhol
石河睦生 古谷咲
石河睦生 澤崎賢一
石河睦生 うしお
石津智大 Nerhol
中島啓 山根一晃
中島啓 前川 紘士
藤田智弘 水上愛美
波多野恭弘 Nerhol
波多野恭弘 古谷咲
冨田秀一郎 木村亜津
冨田秀一郎 前川 紘士
湊丈俊 澤崎賢一
参加したアーティストと科学者からのフィードバック
参加者の満足度は極めて高いものとなった。参加者アンケート(n=20)の結果からは、イベント全体に「満足」していると回答した人は100%だった。
プログラムごとでは、
「参加者総覧」には60%が「満足」、30%が「普通」、10%が無回答。
「発表・質疑形式の交流」および「他者を介した交流」には95%が「満足」、5%が「普通」。
「直接的な交流」には90%が「満足」、10%が無回答。
「来場者QAと来場者同士の交流」には45%が「満足」、35%が「普通」、15%が「不満」、5%が無回答。
「パートナーの組み合わせ方」には、70%が「満足」、10%が「普通」、20%が無回答。
となった。
ープログラム全体
「科学者とアーティストとが「ファンダメンタルなもの」をめぐって対話するというコンセプト自体がとても重要かつ稀有なもので、かつそのコンセプトがともなっている未知なるものへの期待やセレンディピティの歓迎といった要素が会場とスタッフ全体で共有・実現されていたように思います。短期的な目標設定や合理的な設計を意図的に避け、何が出てくるかわからないわくわく感を大事にしていることがよく伝わりました。それこそ科学やアートの出発点にあるものだと思います。参加者全員が各々の営みの意味をリフレクティヴに問い、創造性の原点に立ち戻るきっかけになったのではないでしょうか。こうしたイベントがもっともっと開催されてほしいと切に願います。(哲学)」
「異なる研究・表現分野との交流ができ、とても刺激的な一日になりました。科学者・現代アーティストとの方と交流する機会は多くないため、両者の考え方や物の見方自体に触れ、視野が広がりました。(哲学)」
「科学者という商売が忙しくなりすぎていて、思索の習慣ができていない事にも気づかされ、科学/技術の過度な先鋭化に対するアンチテーゼとなる集会だとも思いました。(科学)」
「論文や作品だけからは伝わってこない部分を、思考や行為のプロセスとして知り得たことは、大変有意義でした。(哲学)」
「分野を醸成するには、「そこに行けば誰かいる」ような「場」や「サロン」が必要です。プラットフォーム化には多大な困難さがありますが、今回のバザールにはその可能性を感じることができました。(科学)」
といったコメントからは、科学と美術が出会うことにより、今一度ファンダメンタルな部分に焦点を当てるというプログラムの構想が、実際に実現できていたということが見て取れる。
「とても楽しかったに尽きます。時間を捻り出しても参加してよかったと感じています。(科学)」
「想像を超えた感動と学びがありました。大きなエネルギーが渦巻いていたように思います。(美術)」
「素晴らしい運営に驚き、また、このような場を有難く思い、もっと広がれば面白いのに、そう思いました。また参加者として何か創り出して残せるものがあればと考えております。(科学)」
「大変面白い企画、ありがとうございました。(科学)」
「まだまだ交流したかったが、もっと交流をしたいと思う状態でイベントを終えたのも良かったと思う。(科学)」
といったコメントからは、参加したアーティストと科学者はイベント自体を有意義に楽しく過ごしたことが見て取れる。
「組み合わせや角度を変えて繰り返しやりとりを行うことから生まれる気づきや発想の展開が大きな可能性としてあるな、と感じました。シンプルな1対1のやりとりのみの交流とは異なる、思いもよらない発想が生まれたり、異なる対話間での関連の発見がある部分がとても良かったです。(美術)」
「1日目の質疑・発表形式から、2日目の他者を介した交流への発展が絶妙な仕組みだったと思う。(科学)」
「アーティスト。科学者がそれぞれ群れることなく、常にアーティスト対科学者という接点を作り続けるという場の作り方がとてもいいなと思いました。(美術)」
といったコメントからは、交流プログラムの設計が効果的であったことがうかがえる。
「研究者の方々が集まると言うことでとても緊張しておりましたが、意外に会場がアットホームな雰囲気でしたので、リラックスして対話することができたかと思います。アットホームな雰囲気は、皆様の人柄もあるのですが、会場の施工の仕様もセンスが良く、堅苦しくない雰囲気を作ってくれる一端だと思いました。(美術)」
「学園祭のような雰囲気があって、一緒に盛り上げようという空気があったのもよかったと思います。(哲学)」
といったコメントからは、会場の設計が功を奏していたことがうかがえる。
しかし、二日間を通じて音声トラブルやスタートの遅れがあったことを受け、
「オンラインで参加した身としては、オンラインの環境の整備がもっと必要に感じました。(科学)」
という意見も出た。
ー発表・質疑形式での交流
初日の「発表・質疑形式での交流」については、ビジュアルを多用するプレゼンテーションに慣れている研究者もアーティストも初の試みとあって、実施前の説明会では質問が相次いだ形式だったが、実際にやってみると
「スライドが使えない発表でどうなることかと思ったが、終わってからは確かにいいアイディアだったと思う。(科学)」
「新しい経験で楽しく参加できました。(科学)」
「どなたのお話も非常に面白く、とにかく楽しませてもらいました。(哲学)」
「参加者からお金取っても良いんじゃないでしょうか。(科学)」
「ビジュアル無しでのプレゼンはとても難しいけれど、自身のコンセプトに向き合う貴重な機会となりました。(美術)」
「一番重要な細部の話が行い難くなることが一つのハードルというか挑戦だったと思うのですが、結果的には伝わらないことも含めたコミュニケーションをとることで、後の交流でのある種の必死さ(?)に繋がった部分もあったのかな、と思っています。不十分(かもしれない)伝わり方も、その後のやりとりを含めて捉えることが出来るならば、コミュニケーションのあり方の一つの選択として有効な面があると感じました。(美術)」
と、一定の有効性はあったことが伺えた。
「異分野との交流がここまで障壁なく実現できたのはなぜなのかと不思議なくらいです。チョークトークという仕掛けのおかげで、登壇者が自分のことばで話していたおかげかもしれません。(哲学)」
といった考察もある一方で、
「自分は一般向けの講演との差別化ポイントが手さぐりでした。なるだけお客さんとインターアクトするように組み立てるべきでした。(科学)」
「やはり普段の作品を見ていただけない状況だと情報が少なくなってしまい、その後の交流のきっかけとなる種が撒かれづらかったのかなと思いました。(美術)」
「芸術家の方は作品を提示できないので、言語化の難しいことを伝えるのに苦慮していたと感じました。(科学)」
「言葉を中心とした一方向的な発表の部分は、事前にできることがあったと思う。当日の同期コミュニケーションならではの可能性がもっとあったようにも思います。(美術)」
「研究者の発表でも門外漢とはいえ、もっと多くの情報を知りたかったです。一ヶ月くらいの期間で参加者の普段の制作や研究にアクセスすることができるオープンなプラットフォームなどがあれば嬉しかったです。(美術)」
と言った回答も複数見られ、特にアーティストにとっては短時間での言語を主なツールとした発表形式が馴染まない場合もあることが伺える。
他に、哲学と美術側から
「もう少し時間があってもよいとも思いました。」
という意見が複数上がった。また科学側からは、
「他の島の声が聞こえてしまい、発表者の声が聞き取りづらかったり、気が散ったりしてしまった。」
という意見が複数上がった。
ー他者を介した交流
「技術・言語・感性がコラボレートし、ミラクルでした。一見遠い分野の3名が、トライアングルを描き、もはや終盤は円になっていたのではないかという程、相乗効果の威力と繋がりを感じました。(美術)」
「とても有意義な時間でした。(哲学)」
「素晴らしかったです。(美術)」
「モデレーターの方がどんどん質問を投げかけてきて、しかもそれ一つ一つが結構考えさせられるもので、とても大変でしたが、一方で話しながらどんどん考えた結果色んな考えが浮かんできてとてもよかったです。(科学)」
「第三者の視点から面白い質問を頂くことができ、有益でした。(科学)」
「自分はどちらかというと理系寄りの制作方法をしているようで、理系の研究者とはそのままでは多分照れ臭さもあり哲学的、本質的な話をし辛く技術的な話に終始してしまいそうでしたが、研究者も哲学的な話をしたかったことがわかり、敷居を下げて下さったこともありがたいです。(美術)」
「自分の興味も反省的に確認でき、稀にしかない素晴らしい機会となりました。(哲学)」
「哲学者の方との会話は、2人で話すよりも話の広がりが急速で、とても興味深かったです。(美術)」
と、哲学という第3者の視点が入ったことで、より深い交流へと発展した様子が伺える。
「哲学美学に間に入ってもらうことで話題も拡張され、フォローアップもあり、喋っている者たちの自己満足にならなかったと思います(科学)。」
「非常に勉強になりました。自身のものはもちろん、他の方々の交流を見た際にも、2者対談でないことから見える様々な情報が詰まっており非常に有効だな、と感じました。哲学者の方の、司会だけれども参加者である、という絶妙なポジションと、落ちがなくてもいいという設定が、作家と科学者の放談を許してくれる雰囲気を持っていて良かったと思っています。(美術)」
「哲学者を介して研究者とお話ができたのはとても素晴らしい仕組みだと思います。(美術)」
とあり、哲学がモデレータとして入るという方法の有効性への言及も複数見られた。
科学者側からは、
「モデレータの負担が大きかったのでは」
という意見が複数、また
「モデレーターの個性が見えにくかったので、1日目に哲学者の皆さんにも、自己紹介してもらっては」
と言った意見も見られた。
美術側からは
「もう少し、時間が欲しかったかなと思います。」
という意見が複数、他に
「プレゼンから交流まで、もう少し時間があるとより相手の発表に関して調べる時間や理解を深められそう」
といった意見も見られた。
さらに、
「悪くはなかったが、哲学者のモデレートもあり、オンライン鑑賞者の目もあり、という状況で、何がゴールなのかわかりにくかった。(科学)」
「登壇者3者はすでに既知の状況なので、名前だけ名乗り、すぐ本題に行ってしまってもよかったのかなと思いました。(美術)」
「視聴者の方にも第1日目の動画を事前公開しておいていただけると、作品を前提にした話が伝わりやすかったかもしれません。(哲学)」
「時間が限られていますので事前に少しだけ打ち合わせをしておく必要があると感じました。(科学)」
「中途半端に終わってしまったケースが多くありました。場合によっては、モデレーターと1対1でとことん深掘りしてゆくという機会があっても面白かったかもしれません。(哲学)」
という意見が寄せられ、初日の交流に参加していない視聴者を配信対象として、科学者とアーティストの交流を深堀することの難しさが浮かび上がった。
ー「視聴者とのQA」及び「来場者同士の交流」
「私のまとまらない話を、本質的に理解していただいていて、視聴者の方のレベルの高さを実感すると共に、嬉しかったです。(美術)」
「途中でああやってオーディエンスと話せるのは、面白かったです。裏で、もう一方の登壇者の方が喋っていることがとても気になりました。ああいう環境も新しくて面白かったです。(美術)」
「視聴者からはとても鋭い質問を複数頂き、視野を広げてもらえました。(科学)」
という意見も複数あったが、
「参加者同士の議論はうまくいかなかった印象でした。(哲学)」
「特に質問もなかったので交流がなかったです。(科学)」
「zoomでの来場者が1人しかいなかったため、来場者同士にはなりませんでした。(科学)」
と言った声も複数あり、
「取り組み自体はとても意欲的だと感じました。継続していき、視聴者が増えていくことを期待します。(美術)」
という意見もあるように、現状交流としては厳しく今後の継続が必要なことが伺える。
また音について
「オンラインでの交流は今回はかなり厳しかった。マイクはピンマイクにして一人一人に付けた方が良かったと思います。あとは会場を分けた方がいいかなと思います。」
等科学側から複数の声が上がった。
ー直接的な交流
「濃密でよかった。(科学)」
「すごく有意義でした。(美術)」
「楽しかったです。(科学)」
「会って話すことで多くの情報を得られますし、pcを使うことで外部の情報を引っ張りながら話すこともとてもドライブ感があってよかったです。(美術)」
「異分野の方と、ざっくばらんに話せるところが素晴らしいです。(美術)」
「1日目のフォローと、具体的なイメージを見せたことから広がる新しい対話につながり、とても充実した時間でした。(美術)」
「充実した議論ができました。異なる職業の人と初対面からこんなに話が合う経験はあまりなく、科学者と芸術家がかなり近いメンタリティで仕事をしていることがよく分かりました。(科学)」
「(他者を介した交流が)終わった後のクールダウンのような時間を2者で取れたのでそれもよかったです。(美術)」
という評価する意見がある一方、
「なかなか忙しなく、自己紹介的なもので終わってしまい、一緒に何ができるかの話までは進めることが出来ず、今後の展開を想像しづらかったです。(美術)」
「ある程度交流が進むと何か作ろうかという段階に入るのだと思うが、そのプロセスが全くわからないのでどう話を進めていけばよいのか分からなかった。今回は初回なので仕方がないかと思うが、マッチングの先の標準的なプロセスも事前に分かっていると先取りもできそう。(科学)」
「相手の言葉を貯める→分類する→分析する→パターン認識や疑問が生まれて問とする、という習慣の中、最初のステップの言葉を貯める器を準備できていなかったので、私には難しいと感じました。時間をかける必要があるようです。(科学)」
「相手の興味や、この企画への要望を探り探りになってしまい、なかなか難しく感じました。(美術)」
といった意見も出た。
また、音の関係から2日目は「直接的な交流」を当初予定した設計の場所とは別の部屋で行ったことから、
「通常の交流とは少し違う雰囲気を感じたかったので、一工夫欲しかった。実験室やアトリエなどで交流してもいいかも知れません。(科学)」
「背景に初日に書き込んだポスターがあるとよりよかったと思います。(科学)」
といった、意見が出た。
さらに、
「明確な休憩時間をとらないと話し続けてしまうので、そこだけ改善の余地あり。(科学)」
「しんどかった。もっと休憩挟めばよかった。(美術)」
と、タイトなスケジュールを指摘する意見が出た。
ーパートナーの組み合わせ
「対話を設定して頂いた4名の方はいずれも接点が多く、良い組み合わせだったと思います(候補以外の方とは深く話す機会が無かったので比較はできないが)(科学)」
「パートナーの組み合わせがとてもよく、驚きました。(科学)」
「当初こちらが上げた候補者とは異なる方との交流もあり、最初はどうなるのかな、と思う部分もありましたが、結果的には非常に良かったです。(美術)」
「全ての方が素晴らしく大満足でした。私としては、ジャンルを問わず、どなたとでも面白かったかもしれません。(美術)」
「バザールが有意義な会になったことへの組み合わせの貢献は大きかった。お互いに興味の合う人とパートナー候補になったことで、初日から頻繁に話すことができた。(科学)」
「希望組んでくださり、ありがとうございました。こちらも、直接の説明を聞いて新たにお話を伺いたい人も出まして、とても有意義な時間を過ごさせてもらいました。(美術)」
という評価がある一方、
「何人がいるパートナー候補には、そこまで興味ややりたいことが合致していない人が含まれていたのも事実。(科学)」
「長所短所感じました。どこかでマッチング以外の交流の場、情報共有があったらより良かったかなと思います。(科学)」
「パートナーの方の参加した目的、この企画を通してやりたいこと等が事前にわかっているともう少し踏み込めるとは思いました。(美術)」
「パートナー候補自体を設けることは良いと思うのですが、時間的にそれ以外の方達との交流ができず選択肢が減ってしまったように思いました。(美術)」
と、ペア以外の可能性が今回なかったことへの言及が複数見られた。
また、
「ペア制ではなく、グループ制での創作活動が出来ればと思います。」
「1対1の組み合わせも進めつつ、複数対複数で取り組めるプロジェクトが発生すると面白いかと思いました。」
と言ったグループ活動への関心も複数声が上がった。
ライブ配信 視聴数
4つの島それぞれの配信を合計すると、最大同時視聴が72名、ユニーク視聴者数が431名、再生回数が990回だった。
ライブ配信 視聴登録者 属性
視聴登録数は216件だった。全体の約3割(72)が「KavliI IPMUのWeb/SNS/ML」を通じて配信を知っており、続いて「友人・知人」(46)だった。
約4割の人が元々科学に関心があり、約3割が美術、約1割が哲学、約2割が無回答で、科学がメインにはなるが、美術関心層へもアピールしていることがわかる。
通常のイベントでは年齢層に偏りが出るものだが、本イベントでは、60代と70代以上をまとめると、20代から70代までほぼ等分(15%前後)しており、10代を除いた全年齢層に等しくアピールしているという特徴がある。
全体の約4分の1が「会社員」、「無職」「美術関係」学生(「大学生」と「大学院生」)が1割前後づつ、残りの2割を「自営業」7.9%、「団体職員」6.5%、「教員」4.1%、「パート・アルバイト」3.2%が占め、約2割が無回答だった。
関東在住者は回答者の約4割で、全体で22の地域で視聴されており、地方にもアピールしているという特徴がある。
視聴登録者のうち、女性が36.1%、男性が42.1%、無回答が20.3%で、男女双方にアピールしている。
参加理由は、「科学のことを知りたい」(90)「美術のことを知りたい」(88)がほぼ同数で最も票を集め、他に「異分野融合・学際研究観点からの関心」(77)「哲学モデレートへの関心」(72)「なんとなく面白そう」(62)「科学コミュニケーション観点からの関心」(57)「Kavli IPMUが主催」(52)が続いた。科学関心層、美術関心層、科学コミュニケーション関心層等、多様な関心層にアピールしていることがわかる。
約6割の人がニュースレターの登録を希望しており、ファンダメンタルズプログラムへの継続した関心が伺える。来場者同士の対話への参加希望は20名、チラシの郵送希望は48名だった。
視聴登録数:216
チラシ・参加者総覧発送申込数:48
来場者同士の対話 申込数:20(参加数:8)
ファンダメンタルズ ニュースレター登録数:262
ファンダメンタルズ YouTubeチャンネル登録数: 305
ファンダメンタルズ Twitterフォロワー: 93
ファンダメンタルズ FB: 103フォロワー
ファンダメンタルズ Instagram: 49フォロワー
ライブ配信 視聴者アンケート 結果
回答数は21だった。視聴満足度は、「満足」が最も多かったが38%、33%が「不満」、29%が「普通」と回答が割れた。最も多く視聴されたスピーカーは天体物理学の藤田智弘(9)、続いて幾何学的表現論の中島啓(8)となり、残りは比較的均等にばらけた。
回答者の半数以上(13)が、「KavliI IPMUのWeb/SNS/ML」を通じて配信を知っており、他は「ファンダメンタルズ Webサイト」「友人・知人」「ポスター」(3)等だった。
回答者の半数以上(57%)の元々の関心分野は科学で、哲学が24%、美術が14%だった。
若干多いのが40代で全体の約4分の1を占める。続いて60代以上(「60代」と「70代以上」)、50代、20代が約2割づつ。30代が少なく1割弱、10代は0で、1割が無回答となった。
回答者の約2割が「会社員」、約1割づつなのが「美術関係」「団体職員」「無職」「その他」「大学院生」、5%づつなのが「教員」「アルバイト」「無回答」だった。
全体の約6割が関東在住だった。
性別は、約6割(57.1%)が男性、約4割(38.1%)が女性、無回答が4.8%だった。
主な参加理由は、「科学のことを知りたい」(13)「哲学モデレートへの関心」(12)「なんとなく面白そう」(11)「異分野融合・学祭研究観点からの関心」(11)だった。
視聴前から、科学・美術のファンダメンタルな側面を意識していたかを尋ねたところ、約8割(76.1%)の人が「意識していた」と回答しており、科学・美術のファンダメンタルな側面に関心の高い人が視聴者アンケートに回答していることがわかる。さらにバザールのライブ配信の視聴を通じて科学・美術のファンダメンタルな側面に関心を持ったかを尋ねたところ、約7割(66.6%)の人が「関心をもった」と回答していることから、アーティストと科学者の交流の公開は科学・美術のファンダメンタルな側面に光を当てるのに一定の効果はあったが、十分に応えられていない側面があったと言える。
自由意見には、配信のトラブルがあったことから
「会場の音響制御が悪く(他のトークや対話者以外の雑音が聞こえる)、対話に集中できないです。」
といった音声にまつわる不満が複数寄せられた。それを受け、事務局で音声を調整し、当初は予定していなかったアーカイブ配信を1週間行った結果、
「一部しか視聴していませんが、質問に対して丁寧にお答えくださったこと、音声の調整や映像公開等のご配慮に感謝します。」
という声も寄せられた。
「科学と美術のつながりが奥深くてとても面白かったです。哲学との絡みも、抽象化されることによって、それぞれの分野の全体がなんとなくイメージできて興味深かったです。このような話をもっと聞きたいと思いました。」
という好意的な意見もある反面、
「哲学もモデレータとしてだけではなく、対等に話に参加しても良いのかとも感じました。」
「科学、芸術、哲学についての私の知見が乏しいためか、おいてけぼりになった感覚が否めません。」
といった意見もあった。
「論点や主張考え方を簡単に図解したパネルなりも用意して頂いたら有り難いです。」
「視聴者の参加の仕方が少し弱い感じがしました。」
といった意見もあり、オンラインでの一般参加者の参加の提供の仕方は検討の必要があるといえる。
課題
総括としては、全てにおいて平均的である程度成功したイベントという形ではなく、参加者の満足度が極めて高いが、一般視聴者からの評価は割れたイベントという結果となった。
一般視聴者からの評価が割れた理由としては、音の問題など技術的な理由も大きいとはいえ、
「交流と公開のバランスの取り方が重要になってくるのかと思っています。交流の多くの部分が公開を前提としたものとなると、発言ややりとりが慎重に、あるいは逆にパフォーマティブなものになる可能性がある」
という指摘が参加したアーティストからあるように、どこに向かうかわからない交流の端緒を、一般公開するにあたっての根本的な課題があると思われる。
まずは科学者とアーティストの交流が純粋な形で行われるということ(1)が第一にあるべきだが、同時にそれが一般にも開かれている(2)ものであることを可能にしようとした場合にはどのようにすれば良いのか。(2)を一般的な形にしようとすると、(1)の内容の充分な説明が必要になるが、事前に充分な説明を用意しようとすると”その場で”という純粋性が損なわれる。しかしながら(2)について何も設計を行わないと、”内輪受け”、”自己満足”という受け取られ方をすることになるだろう。そのような観点から、通常(2)は行われないのだろうと考える。しかし、社会におけるファンダメンタルを追うことについての合意形成をゴールの1つに掲げるファンダメンタルズプログラムとしては、次回に向けて何らかの解決案を見つけていく必要があるかと思う。例えば、科学の研究集会は参加者間で完結するものだが、内輪受けとは異なる形でわからないことを含むことを前提とした一般公開の仕方を設計することはできるのではと思う。
もう一つには、
「今回のイベントの目的とターゲットが、込み入っていて難しく感じました。・誰のための(視聴者・参加者・どちらも) ・ ゴール(対話・ペアリング・どちらも)」
という参加アーティストからの指摘もあるが、どこまで交流の深度を確保し、達成目標とするのかという点もまた1つの課題だと言える。
「短い時間の中での密度の高い交流がとても印象的でした。(美術)」
「特に、組み合わせや角度を変えて繰り返しやりとりを行うことから生まれる気づきや発想の展開が大きな可能性としてあるな、と感じました。シンプルな1対1のやりとりのみの交流とは異なる、思いもよらない発想が生まれたり、異なる対話間での関連の発見がある部分がとても良かったです(美術)」
という意見もある反面、主にアーティストから様々な局面でもっと交流に時間幅を持たせることを望む傾向が見受けられた。
今回交流を階層構造に設計したが、次回はそれぞれの段階での交流について、事前にもっとその役割と意図について期待値をすり合わせるのか、あるいは時間軸を長く設定するのか、まずはある程度の深度での交流と割り切ることで期待値を合わせるのか、こちらも何らかの案を見つけて設計していく必要があるのではと思う。
また、直接的な交流における
「相手の興味や、この企画への要望を探り探りになってしまい、なかなか難しく感じました。(美術)」
という意見も考える必要があると思われる。1つには参加するアーティストと科学者の関心の持ち方は人により異なる。もう1つには、参加するアーティストと科学者がお互いのことについて想像以上に何も知らないという点がある。このことが意味するのは、バザールで交流をする最中に、当初自分が考えていた関心の持ち方が更新されていくことが往々にしてあるということだ。双方の当初の意向が崩れて新たな意向が生み出されるようなそのような交流の仕組みが必要だろう。その1つの方法が哲学の方に交流を媒介してもらう「他者を介した交流」だったが、直接的な交流においてもさらなる設計が見つけられると良いのかもしれない。
最低限音声が干渉しあわない環境の実現、適度な休憩の組み込みと自由交流の時間の確保、より合理的なオペレーション設計が必要なのは言うまでもない。
計画
今月頭、マッチしたアーティストと科学者16組についてそれぞれ面談を行った。今後の交流についての基本的な設計を行い、交流がスタートしている。
アーティストと科学者が前例のない交流を行うにあたり、進行する過程で起こるだろう様々な不安や困難を受容できる、なんらか拠り所となるような場として、"ファンダメンタルズ パーク"を定期的に実施する予定である。16組のアーティストと科学者の組み合わせが一堂に会し、状況の報告と情報を相互に交換する場になる。初回は9月に開催の予定で、こちらは非公開となる。
来年2月には、一般公開の中間報告会"ファンダメンタルズ フェス mini"を実施予定である。こちらは展覧会の形になるのか口頭発表のみになるのかはまだ未定だ。同2月には次回のバザールの公募を行い、6月の実施を計画している。2024年頃にはそれまでの成果を集積した、作品展示を中心とした報告会"ファンダメンタルズ フェス"を実施することを計画している。
(文責:坪井あや)